その夜、いつものようにナサニエルがカイラの部屋を訪れると、いつもは自室に下がっているライザとロザリーの姿があった。

「陛下、折り入ってお話がございます」

カイラは夜着にガウンを羽織っていて、椅子にナサニエルを誘った。

「どうした。なにかあったのか?」

「マデリン様の侍女に気づかれないタイミングでお話したくて」

そう前置きして、カイラは、ナサニエルを椅子へと誘導した。
ロザリーとライザはお茶をいれ、ふたりに差し出す。

「陛下、今日お伺いしたいのは、コンラッド様の婚約についてです」

「なぜそなたが知っている? 結婚したい娘がいるそうだ。まだ喪中だし、コンラッドは学生だ。時間を置いてから紹介してもらうつもりだったのだが」

「そのお相手がクロエさんだということはご存じですか?」

ナサニエルは驚愕の表情を見せた。

「それは聞いていないぞ? イートン伯爵が了承したのか?」

「伯爵は反対しておられます。ですが、クロエさんは了承しているようです」

「あのふたりはそんな関係だったのか?」

ナサニエルは考え込んだが、ロザリーは首を振ってこたえた。

「恐れながら……、それはないと思います。少なくともクロエさんには恋愛感情はなさそうでした」

全てはザックを解放するために組まれた縁談だ。
ロザリーはクロエが持ち掛けられた取引内容をナサニエルにも話した。
ザックに王位継承権を放棄させること。そうすれば無実にして解放すると言われたこと。