景斗と棚部のキスシーンを見た平岡が走っていってしまった。

景斗は監督と話していて、気づいていないようだ。

今までの俺なら何も見ていなかったかのように、放っておいた。

だけど、気づいたら走っていたんだ。





平岡の腕を掴むと、泣きそうな顔で振り向いた。

相当辛かったんだな。

好きな人が他の人とキスするところなんて、見たくなかったと思う。

しかも、アドリブで二回もしているから尚更だろう。

思わず抱きしめてしまって、少し後悔した。

だけど、今しか平岡に触れられないと思ってしまった自分がいた。

平岡は泣きながらたくさん話していて、離そうにも離せなかった。

景斗だから、泣かせているのか。

こんな好きな子を苦しめて、平岡が可哀想だ。

いくら仕事だとはいえ、彼女の気持ちぐらい聞いてあげてもよかったんじゃないか?

あいつは不器用だから多分してないだろうし。

俺だったらこんな風にしないのに。




「…俺にしなよ」

「……えっ?」

「俺なら平岡を泣かせない」

平岡は困っているようだった。

まあ、当たり前だろ。

突然、抱きしめられた上に告白されるんだから。