「先生、一つ質問してもいいですか?」



涙で両目を赤くしている凉子が加藤を責めるように話し始めた。



「それじゃ、先生は紗栄子へのいじめに気づいていなかったって言うんですか?

紗栄子へのいじめは、あんなにひどかったのに……」



加藤は凉子からのその指摘に内心ドキリとしていたが、そのことを顔には出さずに冷静を装って凉子に言った。



「僕は小原紗栄子へのいじめに気づいていなかった。

僕がそのことに気づいていたら、僕はいじめを止めさせていた」



加藤は今の危機的状況でも己の保身だけを考えていた。



そして加藤は紗栄子からいじめの相談を受けたあの日のことを思い出していた。