加藤は憂鬱な気持ちを抱えながら、小原紗栄子のいじめの主犯を考えていた。



クラス全体が小原をいじめていた雰囲気はあったが、その確かな主犯が加藤にはわからなかった。



今は飽食の時代であるはずなのに、自殺者が一向に減らない原因の一つに人は優劣を求め、自分よりも下位の存在を作りたがるためだという意見があった。



つまり、横並びであるはずの平凡な98パーセントの平民が、その中で優劣を競うのは、人間の本能だとう考え方だ。



そして加藤が担任する3年2組の中で優劣の並びを考えるなら、小原紗栄子がクラスの最下位のポジションで間違いなかった。



(主犯はきっと村上晴江と原島虎治か。

ちょっとしたいじめなら問題にならないのに、自殺にまで追い込むなんて……)



このまま空路バスで空を飛んでいられればいいのにという加藤の思いとは裏腹に、空路バスは西条学園中学の近くのバス停へと下りていった。



これから加藤がしなくてはならないことは、できるだけの責任を逃れるいいわけを考えること、そして自分のアカウントの信用スコアのマイナスを最小限に食い止めることだ。



教師はまだ聖職者の地位と考えられてはいるが、所詮は普通の公務員だ。



難を逃れ、穏便に退職までのときを過ごす。



加藤はそんな大切な自分のビジョンを守ることだけを考えていた。