「紗栄子の遺書にいじめをしたヤツの個人名はなしか。

だったら紗栄子のいじめなんてなかったんじゃねぇか?

このクラスで紗栄子のいじめなんて誰も見てねぇよな」



紗栄子いじめの主犯の一人である虎治が悪びれずにそう言った。



このクラスの生徒に虎治と晴江に逆らう人はいない。



この二人ににらまれたら、その人が紗栄子のようになってしまう。



だからいじめの目撃者はたくさんいても、このクラスにはいじめがなかったような空気が漂っていた。



智恵はそんな教室内の空気を読んで、何も語らずにうつむいていた。



誰もが紗栄子のいじめをなかったことにしたいと、心の中で思っていた。