智恵は紗栄子が口にした友達という言葉に胸が痛んだ。



確かに紗栄子と自分は友達だった。



わかりあえている親友だった。



でも自分はそんな紗栄子を裏切った。



自分がいじめられるのが怖くて、自分だけは助かりたいと思って……。



紗栄子に自殺を決断させたのは、きっと自分の裏切りだった。



もしも自分が最後まで紗栄子の友達でいたならば……。



「私ね、どうしようもない絶望の中で、一番最初に智恵のことを思い浮かべたよ。

私には味方なんていなかったから……」



いつの間にか暗かった図書室にかすかな光が差し込み始めた。



それは絶望の夜が終わろうとする合図だった。



そんな状況の中で紗栄子は智恵に話し続けた。



「智恵はきっと復讐なんて不毛だって思ってるよね。

私もそうだと思ってたから。

でもね、人の心って理屈じゃないんだ。

私はいつもみんなの不幸を心から願っていた。

私を裏切った智恵にも復讐したいって思ってた」



紗栄子はそう言うと、今にも倒れそうな足取りで智恵の方へと歩き始めた。



智恵はそんな紗栄子を見ていられなくて、立ち上がり、倒れそうな紗栄子を支えていた。



そして智恵は意識を失いそうになっている紗栄子に泣きながら話しかけていた。



「ごめんね、紗栄子。

私が最後まで紗栄子の友達でいれたら、こんなことにはならなかったのに……。

私ね、自分の弱さが悔しいよ。

もしも私が誰よりも強かったら……。

もしも私に勇気があったら……」



血まみれの紗栄子の右手が智恵の首へと伸びてきて、紗栄子の右手が智恵の首を力なくなでていた。



智恵はそのとき紗栄子からの復讐を覚悟していたが、紗栄子は右手に力を込めることなく、そのまま脱力して、動かなくなっていた。



智恵は自分に寄りかかったまま死んでしまった紗栄子を泣きながら強く抱きしめていた。



もしも紗栄子へのあの残酷ないじめがなかったならば、自分はまだ紗栄子と友達でいれただろうかと思いながら……。