図書室内でかすかに聞こえる紗栄子の足音はゆったりとしたリズムを刻んでいた。



でも、その足音はゆっくりではあったが確実に智恵の方へと近づいていた。



智恵は生きた心地がしないままに、心の中で必死に紗栄子に話しかけていた。



(紗栄子、お願い。

私を許して……。

私が紗栄子を裏切ったことは本当に悪かったなって思ってる。

でも私にはそうするしかなかったの。

私は弱くて臆病だから……)



確実に近づいてくる紗栄子の足音が智恵には怖かった。



その足音は死神が自分を殺しにくる悪魔のメロディだ。



その悪魔のメロディに智恵の心は乱れ、パニックになるほどの不安が心にのしかかってくる。



その足音が自分のすぐ近くにあることを智恵は感じずにいられなかった。



そしてその足音は智恵のすぐ近くまで来てピタリと止まった。



智恵は悪魔のメロディが止まったと同時に死神が自分の命を奪いにきたことを知った。



図書室の中はしんと静まりかえり、まるで時間が止まってしまったかのように思えた。



そんな静寂の中で図書室の隅で下を向いてうずくまっていた智恵は、ゆっくりと目を開けると、足音が聞こえていたその方向に目を向けた。