ある日、紗栄子は夢を見た。



それは大好きだった父が家に帰ってくる夢だった。



父は事故で死んでしまったはずなのに、どうしてここにいるんだろう?



紗栄子はそんなことを疑問に思いながらも、大好きな父と話がしたくて、父の顔を見つめていた。



「ただいま、紗栄子。

オレが留守の間、元気にしてたか?

お土産のお菓子を買ってきたんだ。

部屋で一緒に食べよう」



何年かぶりで聞いた父の声が懐かしくて、紗栄子は声を出して泣いていた。



そして紗栄子は父の胸に飛び込み、自分がつらかった思いを泣きながら話し始めた。



「お父さん、どうして帰ってきてくれなかったの?

私はお父さんに話したいことがたくさんあったのに……。

私ね、欲張らずに生きてたの。

今、手の中にある大切なものだけを大切にしようって……。

でも、私にはそれすらもできなかった……。

悔しいよ、お父さん。

私、もっと強くなりたい。

誰にも傷つけられないように強くなりたい」



紗栄子はどれくらいの時間、父の胸の中で泣いていただろう。



紗栄子が気づかないうちに辺りは暗くなっており、強く両手で抱きしめていたはずの父もいつの間にかいなくなっていた。



紗栄子はそれに気づくと、あわてて辺りを見回していた。