「ねぇ、紗栄子。

確かに人は働かなくても生きていけるようになったかもしれないけど、働かなくても幸せになれるわけじゃないのよ」



幸枝は優しく諭すように紗栄子にこう言った。



「人はね、衣食住が足りれば幸せになれるわけじゃないの。

それはね、人は誰かと自分を比較して生きているからよ。

家にはお父さんがいないけど、せめて紗栄子には他の子たちと同じだけの可能性を持っていて欲しいの。

いくらお父さんがいないからって、紗栄子の未来を暗いものにはしたくないの」



紗栄子は幸枝の話を聞きながら、幸枝の優しさを感じていた。



幸枝の生活の優先順位は、いつでも紗栄子が一番目で自分のことは二番目以降だ。



紗栄子はそんな母が大好きだったし、仕事で無理して欲しくないとも思っていた。



紗栄子はそんな自分の気持ちを込めて、母に笑いながらこう言った。



「お母さんは何も心配しなくていいんだよ。

私の未来は暗くなんかないから。

私は他の子たちよりも幸せになれると思うから」