「ねぇ、紗栄子。

もう泣くのは止めなさい。

お父さんの事故を悔やんでも仕方がないから。

二人で前を見て生きていこう」



紗栄子の父が亡くなって、告別式が行われる前に紗栄子の母である幸枝は泣いている紗栄子を励ました。



その日は今から二年前、紗栄子が中学一年生のときだった。



紗栄子の家は父の正和を頼りに生活していたので、正和の事故死から紗栄子たちの生活は大きく変わった。



紗栄子は慎ましくなっていく家庭生活を見ながら、今さらながらに父の存在の大きさに気づかされた。



そして優しくて、病弱な母がそのことを心の中で気にしていることも知っていた。



紗栄子は変わり行く運命を感じながら、いつも病弱な母を心配していた。



母が人並みに働くことは大変なことだと、紗栄子は知っていたから……。



ある春の温かい日に、紗栄子は晩御飯の準備をする母の隣に立って、料理を手伝うためにジャガイモの皮を剥き始めると、笑いながら母に話しかけた。



「お母さん、知ってる?

今の世の中は働かなくても衣食住が足りる世の中なんだって。

科学が進歩してね、AIやロボットが人間の生活を支えてくれているんだよ。

人って、無理に働かなくても大丈夫なんだって。

先生が私に教えてくれたんだ」



紗栄子が明るい口調でそう言うと、幸枝は静かな声で言葉を返した。