「人の命は何よりも尊いというのは一昔前の倫理観だ。

なぜなら人の命はいくらでも複製できるようになったからな。

とはいえ、それでも価値ある命は存在する。

それは二度と蘇ることのない限りあるたった一つの命だ」



リリコは、少しお酒に酔ってうれしそうにそう話す生神の顔を見つめていた。



もしかしたら、無限の命を可能にしたこの人だからこそ、他の人よりも命の価値に敏感なのかもしれないと思いながら。



「リリコ、私はこう思うんだ。

たとえ美しいダイヤでも、石ころのようにそこら中に転がっていたら価値がないだろ。

価値とはつまり稀少性なんだよ。

クローン人間が人間と同じ遺伝子を持っているからといっても、奴らの命にはこの稀少性がない。

同じ体型で、同じ顔で、同じ声をした百の命は、当然、価値が低いんだ。

でも、このモニターに映る中学生たちの命は一つだけ。

その命が次々に消えていくのは、まるでお祭りで見る花火のようだ。

一瞬だけ夜空を明るく照らして消えていく。

この儚さが最高におもしろいんだよ」



(生神亮治は普通の人とまるで違う。

彼の倫理観は見事なほどに壊れている。

でも、この壊れた倫理観こそが彼の言う稀少性なのかもしれない。

凡人とは違う感性を持っているから、彼は天才になれたのかもしれないわ)