虎治に強烈な一撃をくらった紗栄子は激痛に悶え、自分の意識がしだいに遠くなっていくのを感じていた。



あんなに憎い原島虎治が目の前にいるのに、自分は復讐を果たせず、このまま死ぬのか?



紗栄子が弱気になってそんなことを思ったとき、紗栄子の頭の中に生神亮治の声が蘇った。



『紗栄子、お前の復讐が成功するために、私がお前にこの薬を注入してやる。

この薬の名はエデン。

別名は不死の薬だ。

エデンの力さえあれば、脳を損傷しない限りお前は死なない。

お前が強い目的意識さえ持っていれば、お前は何度でも立ち上がれるんだ。

紗栄子、憎い奴らを皆殺してこい。

お前はそのためにこの世に帰って来たのだから』



(私は死ねない……。

だって私が死んだあとにクラスメイトたちだけが幸せになっていたら不公平だ……。

私だって幸せになりたかった。

普通の生活……、小さな夢……、大切な友達……。

私はそれを奪われたんだ……)



虎治のフルスイングのバッドを顎に受けて、普通なら立ち上がることができないはずの紗栄子が両手を床についてゆっくりと立ち上がった。



そしてそれに気づいた虎治は驚きの中で、顎を砕かれた醜い顔を血で赤く染めている紗栄子を見つめていた。



(紗栄子が起き上がってきやがった……。

紗栄子は本物のバケモノになったんだ……。

普通の人間ならもう立ち上げれるはずがないのに。

紗栄子の奴はまるでゾンビだ)



紗栄子は顎を砕かれながらも制裁の槍を右手に持ち、まだ少しも闘志が衰えない目で虎治をにらみつけていた。



虎治は紗栄子の怨念にも似たその感情を、絶対に戦いを止めようとしない紗栄子からひしひしと感じていた。