『虎治、お前は本当にオレの子か?

同級生が普通にできることもお前はまともにできやしない。

兄の龍一はあんなにも優秀なのに、お前ときたら……』



虎治は偉大な父、良家の母、優秀な兄に囲まれて育った落ちこぼれだった。



特権階級の家に生まれ、最初から平民の家の子とは差がある立場であるはずなのに、虎治は暗愚と言えるほどに他の子たちと同じように生きられなかった。



虎治は偉大な父を心の中で尊敬し、優秀な兄に憧れていたが、自分はどうしても二人の存在に近づけない。



そんな現実がある中で、虎治は二人のような人間になることをあきらめた。



ネット検索すれば正解が導き出され、AIやロボットが当たり前のように正解だけを答える中で、自分の価値は正解以外のところにきっとある。



虎治は普通であることを憎み、極端な人間でありたいと思い続けた。



そして自分が一番になれる場所を見つけ、その小さな世界の中のみで生きていこうと虎治は真剣に思っていた。



そんな虎治が純粋に夢中になれたのは、暴力と破壊だった。



虎治は生まれつき大きな体に恵まれていて、同級生に力で負けたことは一度もなかった。



気にくわない奴を容赦なく殴ると、そいつは決まって黙り込み、次の日から自分の言うことをきくようになっていた。



そんな成功体験を繰り返しているうちに、自分には暴力さえあればそれでいいという結論を虎治は導き出していた。



自分はこの拳で周りの人間を黙らせ、支配し、統括する。



だからケンカだけは絶対に負けない。



ケンカだけが自分のすべてだ。



虎治は紗栄子との戦いの最中に自分を支えている過去を思い出し、目の前にいる紗栄子をぶち殺すと改めて心に誓った。



そして虎治は右手に持った金属バッドを全力で紗栄子の頭へと振り下ろした。