体がくの字に折れた紗栄子の体を突き放し、虎治は右手に持った金属バッドを振りかぶった。



そして虎治は渾身の力を込めて、バッドを紗栄子の頭へと振り下ろした。



(あのバッドが紗栄子の頭に直撃したら、紗栄子の頭蓋骨が砕け散る。

そしたら虎治君の勝ちだ。

オレたちは生きてこの学園を出ていける!)



辰雄のそんな願いを込めた虎治のバッドの一振りが紗栄子の頭へと迫っていた。



でもそのとき、紗栄子は顔を上げてそのバッドをにらみつけると、バッドの軌道に制裁の槍を繰り出し、虎治の一撃を槍の鉄の棒の部分で受け止めた。



その瞬間、金属と金属がぶつかった衝撃音が校舎二階の廊下に響き渡った。



そして紗栄子は両手で制裁の槍を横向きのまま前に突き出し、虎治のバッドを押し返した。



(マジかよ……。

紗栄子が怪力の虎治君のバッドを押し返しやがった。

力は紗栄子が上なのかよ。

虎治君でも勝てねぇのかよ)



虎治と紗栄子は間近で互いの顔をにらみ合い、命がけの真剣勝負に集中していた。



二人の戦いは拮抗していたものの、実力ではきっと紗栄子が上だろう。



そう思っていた辰雄は自分の胸に勇気を出して問いかけていた。



(紗栄子と虎治君の戦いにオレが参戦したらどうなる?

今、背後から紗栄子を襲えば、きっとオレでも紗栄子を倒せる。

オレさえ勇気を出せば、このリベンジゲームはオレたちの勝ちなんだ)



辰雄はずっと不良を通していたが、辰雄は自分よりも弱い者としかケンカできない臆病者だ。



ケンカで自分の実力を誇示したくても、同じ学校の同学年に原島虎治みたいなバケモノがいて、辰雄は負け犬のように強い者とのケンカを止めた。



(オレは二流で、原島虎治の金魚の糞だ。

でも、今のこの瞬間だけなら、自分が一番輝ける。

あのバケモノ、小原紗栄子をぶち殺して!)