晴江たちが校舎を出て校庭にやってくると、自衛隊がライトで照らして明るくなっている西門付近に複数の生徒がいるのがすぐにわかった。



そしてその生徒たちの集団からは悲鳴が聞こえ、みんなが散り散りになって逃げ出していた。



晴江はそんな非日常的な光景に興奮して、逃げ惑う3年2組の生徒たちを見つめていた。



(クラスメイトたちが悲鳴を上げながら、必死に逃げている。

西門近くには番犬ルドルフがいて、西門には近づけないのね。

犬に食われて人が死ぬなんて、最高におもしろい)



普通の人間はリスクを避けるが、村上晴江は危険な匂いが大好きだ。



世の中が豊かになったと言われ、働かなくても十分に生きていける社会の中で無難に生きていくことは、人間の植物化だと晴江はいつも思っていた。



人間の幸せは衣食住の安定供給なんかじゃ決してない。



自分は、極端な危険と穏やかな安定を往復し、感情が激しくアップダウンしたときにしか幸せを感じない。



だから晴江は極端な不幸や極端な危険、極端な残酷さを好んだ。



マイナスに大きく振れる瞬間がなければ、満ち足りた環境にいても意味がない。



それが晴江の中に確立された哲学だった。



晴江は番犬ルドルフから散り散りになって逃げていくクラスメイトたちを見てら自分の身に危険が近づいていることを知ると、ポケットに手を突っ込んだ。



そして長さ10センチほどの赤色の筒を三つ手に取ると、それを早苗と菜々美に見せてこう言った。



「あんたたちにこれを貸してあげる。

シャイニングサーベルよ。

あんたたちにもわかるでしょ?」



「えっ?

どうして晴江がそんなものを……」



早苗はそう言って驚き、晴江の顔を見つめていた。