「なぁ、紗栄子。

クラスで孤立するって、どんな気持ちだ?

お前は晴江が憎いか?」



紗栄子は虎治のストレートな質問に戸惑った。



クラスで孤立するのはもちろん最悪の気分だ。



もしも晴江を憎んでいるのかと聞かれたら、今すぐ死んで欲しいと思うくらいに憎んでいると答えたい。



でも紗栄子は自分の気持ちをオブラートに包み、言葉を選んでこう答えた。



「私は前みたいに、普通にみんなと話がしたいし、仲良くなりたい。

それから晴江さんのことは、自分へのいじめを止めてくれたらって思ってます」



今まで晴江から受けた屈辱を思い出すと、泣きたくなるし、過去を消したいと思ってしまう。



もしも晴江さえいなければ、自分は普通の中学生でいれたはずなのに……。



そんなことを思いながら、紗栄子は虎治の言葉を待っていた。



虎治はどうやって自分を救ってくれるのだろうと思いながら。



でも、虎治の言葉を待っている間、虎治の強い視線が紗栄子には居心地が悪かった。



そして紗栄子が虎治の強い視線から目をそらしてうつむいたとき、虎治がようやく話し始めた。



「晴江の嫌がらせは残酷で容赦がないよな。

晴江はよ、生まれつき人間らしい気持ちを持ち合わせてないんだよ」



紗栄子は虎治が言ったその言葉に心の中でうなづいていた。



確かにそうだ。



村上晴江は優しい気持ちを一ミリも持たない人間のグズだ。



「でもよ、紗栄子。

オレは晴江の人間味を感じさせない冷たさが嫌いじゃない。

あいつはオレのダチだからよ」



虎治の今の言葉に紗栄子の心臓がドクンと跳ねた。



そして得体の知れない不安の中で、自分が間違った選択をしてしまった予感がしていた。



もしかしたら自分は、さらなる地獄に足を踏み入れてしまったのかもしれないと……。