「さ、紗栄子です……。

虎治君とここで会う約束をしていたから……」



紗栄子はそう言い終わったあともドキドキしていた。



虎治は自分のことをどう思っているのだろうと考えながら。



そして紗栄子が虎治の言葉を待っていると、再び部室の中から虎治の声が聞こえてきた。



「紗栄子か?

入れ」



紗栄子は威圧的な短い言葉に怯えながらも、ゆっくりと山岳部の部室のドアを開けた。



すると、その瞬間にタバコの匂いがしてきて、紗栄子は少しむせかえった。



そして紗栄子が部室に入って中を見ると、そこには虎治の他に辰雄と誠二がいた。



3年2組の不良である三人が一斉に紗栄子に目を向けたとき、紗栄子は本能的に尻込みしてしまうような恐怖を感じていた。



「ドアを閉めろ」



紗栄子は突然の虎治の大きな声にビクリとして、息が止まった。



「聞こえないのか?

ドアを閉めろ!」



紗栄子は虎治が少し苛立っているのを感じながら、慌てて部室のドアを閉めた。



そして惨めで弱い自分を虎治に救って欲しくて、紗栄子はすがるような目を虎治に向けた。



「よく来たな、紗栄子。

まぁ、こっちに来いや」



虎治にそう言われ、紗栄子は漠然とした不安を抱えながら、ゆっくりと虎治へと近づいていった。



そして紗栄子のその動きに合わせるように椅子に座っていた辰雄がゆっくりと立ち上がり、紗栄子の後ろの方へと歩いていった。



紗栄子は男子しかいないこの部室の中で、誰かが背後に来るのが本当は嫌だった。



でも、紗栄子がそのことを口にせずに椅子に座っている虎治の前に来たとき、紗栄子の後ろで部室のドアの鍵が閉まる音が聞こえた。



なぜ辰雄は部室のドアの鍵を閉めたのか?



紗栄子はそのことに疑問を感じ、心の中でさらに不安が広がっていくのを感じていた。