ホームルーム開始、五分前を告げるチャイムが鳴って、晴江たちは床にうずくまって泣いている紗栄子を置き去りにして自分たちの席に帰っていった。



紗栄子は泣きながらハンカチで自分の汚れた顔を拭き、その後にドッグフードが散らばる床を拭いた。



クラスの生徒たちはそんな紗栄子を見て見ないフリをして、何事もなかったかのように、それぞれが友達と笑いながら話していた。



智恵は泣いている紗栄子が心配で、紗栄子に話しかけたかったが、智恵はクラス内ある紗栄子を助けたら自分までもがいじめられるという空気を察して、自分の席から立つことはできなかった。



そして数分後、教室内に担任教師の加藤仁志が入ってきた。



加藤はちょっとオシャレな若い教師だが、正直なところ、教師という職業に情熱を持っていないし、生徒にもそれほど興味を持ってなかった。



加藤は教壇の前に立ってすぐに、視界に入った小原紗栄子が泣いていることに気づいたが、それを見て見ないフリをして、生徒たちに話し始めた。



智恵はそんな加藤の怠慢な態度を見て、声には出さずに加藤を強く批判していた。



(加藤先生は絶対に紗栄子がいじめられていることに気づいている。

それなのに、どうして紗栄子を助けてはくれないの? )