「どうしたんだよ、紗栄子。

せっかく晴江がエサを持ってきてくれたのに食えないのかよ!」



晴江を味方につけている菜々美は、少しも悪びれることなく残酷なことを紗栄子に言った。



「犬は犬らしく、四つん這いになってエサを食え!」



早苗はそう言って紗栄子をイスから引きずり下ろし、晴江が踏みつけたドッグフードに紗栄子の顔を押しつけた。



紗栄子の顔はドッグフードで汚れ、自尊心を深く傷つけられた紗栄子は悔しさの中で泣いていた。



なぜ、自分がこんな目にあわなくてはいけないのか?

なぜ、自分はこんな理不尽なことに屈服しなくてはからないのか?

なぜ、このクラスの人たちは、誰も自分を助けてくれないのか?



なぜ……、なぜ……、なぜ……。



紗栄子は自分の心にこの溢れるほどの理不尽の理由を問いかけてみたが、その答えが見つかることは決してなかった。



ただわかっていることは、自分が弱くて、みじめで、逃げ場のない絶望の中にいること。



紗栄子は晴江を憎み、このクラスの生徒を憎んだ。



いじめに加担していなくても、こんな理不尽なことを黙認しているすべての人が敵だと思って……。