「なぁ、紗栄子。

今日はお前にいいものを持ってきてやったよ」



晴江はそう言うと、手に持っていた缶詰を紗栄子の顔の前に突き出した。



そして紗栄子がその缶詰に目を向けたとき、晴江はまた話し始めた。



「これはさ、うちの犬が食べてる高級なドッグフードなの。

紗栄子はさ、うちのクラスの最下位で、私たちのかわいい犬だから、特別に持ってきてあげたのよ」



晴江はそう言うと、そのドッグフードの缶詰を開け、缶詰の中身をわざと床にポトリと落とした。



そしてそのドッグフードを上靴で踏みつけると、紗栄子に命令するようにこう言った。



「ほら、紗栄子。

エサの時間だよ。

このドッグフードを食べろ」



晴江がそう言うと、紗栄子は青い顔をして黙り込み、早苗と菜々美は紗栄子をバカにするようにゲラゲラと笑っていた。



智恵は紗栄子に行われている理不尽ないじめを見て、急にお腹が痛くなり、息が苦しくなっていた。



(晴江さんのいじめって、ひどすぎる。

晴江さんには人の心がないの？

晴江さんには人の心の痛みがわからないの？)



おそらく智恵以外のクラスメイトも智恵と同じことを考えていた。



でも、他の生徒たちも特権階級の晴江に意見することはなく、クラスの中では理不尽ないじめがまかり通っていた。