西条学園中学、3年2組の教室で小原紗栄子へのいじめが本格的になっていた。



大人しくて優しく、そして笑った顔がかわいらしかった紗栄子の顔から、ある日を境に笑顔が消えた。



特権階級に属し、自分が特別だと思っているクラスの女王、村上晴江のいじめはそれほどまでに残酷だった。



朝、紗栄子が学校に来て席に着くと、いつものように晴江たちのグループ三人が紗栄子の席を囲んで、紗栄子に嫌がらせを始めていた。



「おはよう、紗栄子。

今日もちゃんと学校に来るなんて偉いじゃない」



晴江がうつむく紗栄子をバカにするようにそう話しかけた。



紗栄子はそんな晴江の言葉に答える気力もなくて、うつむいたまま黙り込んでいた。



智恵はそんな紗栄子の様子を教室の隅にある自分の席からそっと見ていた。



(今日も紗栄子が晴江さんたちに絡まれている……。

どうして晴江さんはあんなに紗栄子をいじめるんだろう?)



智恵はそう思って、机の下で強く拳を握りしめた。



(本当なら紗栄子を助けてあげたい。

でも、私一人で何もできないのはわかってる。

いつになったら紗栄子のいじめは終わるんだろう?

一ヶ月後? 半年後? それとも私たちが卒業するまで?)



紗栄子にとって智恵は唯一の友達だったし、智恵にとっても紗栄子が唯一の友達だった。



それなのに、自分が紗栄子を助けられないもどかしさに、智恵はいつも苦しんでいた。