「止めな、早苗。

こいつには何を言っても無駄みたい」



「でも、晴江……」



「私が止めろって言ったら、黙って止めればいいんだよ!」



晴江がそう言って早苗を怒鳴ると、早苗は自分の意見を引っ込めて、晴江の言葉に従った。



晴江は細身でケンカには向かなそうに見えるが、クラスの女王である晴江に逆らおうとする生徒はいない。



なぜなら、晴江に逆らえば、それが何倍もの災いになって、自分の身に降りかかってくるのをみんなが知っているから。



もちろん、紗栄子も晴江のそんな一面を知っていたので、紗栄子は晴江との争いを回避したいと思っていた。



「久しぶりに見たわ。

私の言うことに逆らう奴を。

紗栄子、あんたはおもしろいよ」



晴江の含みがありそうな話し方に紗栄子は嫌な感じを覚えていた。



「あんたが私に土下座したくないって言うなら、私にも考えがあるからね」



晴江のその言葉に紗栄子は漠然とした恐怖を感じていた。



晴江は紗栄子を許すことをもはや考えてはいなかった。



晴江が今考えていることは、どうすれば紗栄子を追い詰めるようにいじめることができるかだ。