何でもないありふれた春の日、普通の中学生だった小原紗栄子の運命は、ある出来事を境にして大きく狂い始めた。



紗栄子が友達の智恵と二人で並んで歩いていたとき、紗栄子は話しに夢中になりすぎてクラスの女王、村上晴江と思いっきりぶつかってしまったのだ。



紗栄子が手にしていたオレンジジュースは辺りに飛び散り、晴江の制服までもを汚していた。



紗栄子はそのことに動揺して、怯えながら汚れた晴江に目を向けたとき、晴江のグループの早苗が真っ先に口を開いた。



「おい、紗栄子。

どこ見て歩いてんだよ。

晴江の制服をこんなに汚しやがって!」



大人しい性格の紗栄子は早苗のその言葉に萎縮して、声が出せなくなっていた。



そしてパニックになった紗栄子は晴江に謝ることすら忘れていた。



(どうしよう……。

私が前を見ていなかったから。

晴江さんの制服をあんなに汚しちゃって……)



下を向いて、何も言えずに黙っている紗栄子を心配して智恵が紗栄子に小声で話しかけた。



「紗栄子、早く謝った方がいいよ。

晴江さんが怒ってるよ」



紗栄子は智恵にそう言われて晴江に謝ろうと思ったが、なかなか言葉が出てこなかった。



そして紗栄子が言葉も出せずにまごまごしているうちに、晴江が不機嫌そうにこう言った。