凉子は逃げなくちゃいけないとわかっていたが、やっとたどり着いた校舎の手前で足を止めた。



凉子は頭の中では麻耶が決して助からないことを理解していた。



でも、そんな現実を無視するかのように、凉子の心は麻耶を助けたいという気持ちに支配されていた。



紗栄子という殺人鬼のバケモノからあの制裁の槍を奪い取って、紗栄子の胸に突き刺してやりたい。



紗栄子の恨みとか憎しみとか、そんなものは自分たちには関係ない。



凉子の目の前で麻耶は力尽きて目を閉じた。



そして脱力してもう動かなくなってしまった麻耶を見ながら、凉子は聞こえるはずのない麻耶の声を聞いていた。



『凉子、私ね、大人になったらWebデザイナーになりたいんだ。

人は働かなくても生きていけるって言われてるけど、私はちゃんと働きたい。

AIやロボットにはできないようなクリエイティブな仕事を私はやりたい』



凉子の瞳から涙がこぼれ落ち、大切な友達が叶えられなかった夢が儚く消えていくのを凉子は感じていた。



そして紗栄子への怒りと憎しみが凉子の心を支配したとき、凉子は我を忘れて紗栄子に飛びかかっていた。



(私は紗栄子からあの槍を奪ってやる。

それでその槍で紗栄子の胸を貫いてやる。

でも、それだけじゃ全然足りない。

紗栄子の体が醜い肉の塊になるまで、私は紗栄子の体を何度でも刺し続ける!)



凉子は泣きながら、紗栄子が手にする制裁の槍を両手でつかんだ。



そしてもう生涯で二度と出せないような全力の力で、その制裁の槍を自分の体の方へと引っ張った。



でもそのとき、凉子は想像と現実の違いの大きさにようやく気づき、心の中に絶望と恐怖が広がり始めた。



凉子がすべての力を込めて制裁の槍を引っ張っても、制裁の槍は紗栄子の力の強さのためにピクリとも動かなかった。