南側が大通りに面した、日当たり良好のモデルハウス。どう考えても一般家庭向けではない広さがあるのは、それだけ売り込みたいポイントを詰め込んだからだ。

そのせいで、毎日このモデルハウスの掃除をする私は苦労しているのだけれど。

6LDKなんて聞こえはいいけれど、実際住んだらひと通り家事を片付けるだけで半日が終わりそうだ。

リビングの壁に埋め込まれた本棚もセールスポイントのひとつ。なんでも、家族全員が集まる場所に、家族それぞれの趣味の本を置いておくと将来的にいい関係が築けるらしい。

こどもがいる家庭ならなおさらで、幼少期の頃から色んなジャンルの本に触れさせる絶好の機会が家のリビングにあるなんて、こんな素晴らしい提案はわが社にしかできない!……と、数日前、営業担当のひとりがここでお客様相手に熱弁していたけれど。
その程度のことだったらどこの会社でもやっていそうだ。

……なんて本音はもちろん言わず、私もお客様にお茶出ししながらうなずいてみせた。
熱意は見せておいて損はない。

そんな、セールスポイントの棚のほこりを払いながら何気なく窓の外を見ると、同じ会社の瀬良柊二が女性社員数人と歩いていく姿があった。

時計を確認すると十二時半。これからランチにでも行くんだろう。
一瞥して、棚の掃除に戻る。

営業部の瀬良さんは、社内で一位二位を争うモテ男だ。学生時代モデルをやっていただけあって、そのルックスはどこまでも甘く整っている。
身長も高く、しっかりとした体つきも人気を後押ししている要因のひとつで、明るく軽い性格がダメ押しだ。

そんな瀬良さんと私は、実をいうと家が近所の幼馴染で、高校の頃は付き合っていた。
瀬良さんの告白から始まったふたりの関係が終わりを告げたのは、高校三年生の夏。

瀬良さんの浮気が原因だった。

『それさ、いつまで言うの? たしかに俺が悪かったかもしれないけど、もう謝ったじゃん』

とっくに終わったことだと言いたいのか。謝ったんだから、もうなかったこととして過ごせというのか。

心底嫌そうな顔で告げられた言葉にショックを受け、その数日後、私から別れを切り出した。

瀬良さんのことは好きだったけれど、大好きだったけれど、きっともう耐えられないと悟ったから。

高校卒業後、大学は別々になったからその間は忘れられていたのに……半年前、会社で再会したら、簡単に引きずられそうになる自分がいて、現在とてもとても困惑中だ。