ちょっとコツを掴んだことで、いずみは何となく気が楽になった。

「ねぇジョナス。ジンジャークッキーを作りたいんだけど、手伝ってくれる?」

「ジンジャー……って、これを使う気ですか? 本気で?」

辛み成分であるショウガと甘いクッキーの相性をどうにも疑っているらしい。
見ててね、と言って、いずみは材料を入れてこね始めた。

小麦粉とバター、そして卵。ハチミツがいっぱいあったのでこれを砂糖の代わりにいれ、ショウガのパウダーを混ぜる。
レシピをしっかり覚えているわけではないので、記憶に従い目分量でボウルに入れてこね始めた。

最初は粉っぽいけれど、練り続けている間にひとつの塊になっていく。ラップが無いので清潔そうな布で包み、生地を休ませた。

「ジョナス、オーブンの使い方を教えてくれる?」

「おう。こっちですぜ」

コンロ同様、オーブンもやはり魔力が必要らしい。

「奥様にゃあ無理かぁ」

「そうですね」

はっきり言われて、いっそ清々しい思いだ。
今更、取り繕っても仕方ない。半年の間訓練して全く使えなかったのだ。認めて生きていくしかあるまい。
思えばここに呼び出されてから、挫折と屈辱にまみれた半年だった。地の底を知った今、『できない』と告げることを恐れる気持ちは小さくなっていた。

「……せめて、どんな温度で焼けばいいかを上手に伝えられるようにするわ」

「おう。どんとまかせておけよ。奥様の、お好みの焼き加減に仕上げて見せましょうぜ」

(それに、ここの人たちは、私ができないことを責めたりしないんだよね)