やがて生放送が始まる。
カメラを前にすると、テレビ慣れしている亜由美は表情が生き生きとする。
ばっさばさのつけまつげに、派手なお化粧。彼女は三十代で子供もいるが、生活臭をあまり感じさせない。二十代の独身だって言われても、納得できるくらいに若々しい。

「今日は、とっても健康にいいメニューですよう」

はつらつと語る亜由美に比べて、いずみには華やかさというものがない。
身長は日本女性の二十六から二十九歳の平均身長そのものの、百五十八センチ。体重も四十八キロと完全なるMサイズ女である。
日本人らしいうりざね顔。パーツのひとつひとつは平坦で、化粧はいつもナチュラルメイクで、存在感があまりない。

今みたいに、亜由美の助手としてテレビに出ることは多いが、友人の感想は「え? 出てた?」だ。

いずみが亜由美の助手になってかれこれ四年が経つ。
料理の下準備は毎回しているし、亜由美名義で発行する料理本の原稿を書いているのだっていずみだ。レシピ考案だって手伝っている。言ってしまえば、いずみのレシピのほうが人気はある。
だが、いずみは目立たない。地味で、気の利いた会話もできない。だから、テレビに呼ばれるのは亜由美の方だし、いつだって彼女からはダメ出しを食らう。

料理研究家に必要なのは、料理の才能よりも栄養バランスの組み立て能力よりも、センスなのだ。
出来上がったものを、他にふたつとない魅力のある料理だと伝える会話力と、おいしそうに見せる盛り付けセンス。
それがあるだけで、同じものを作っても、評価は全然違う。

(でもセンスって生まれ持ったものじゃない? どうやって鍛えたらいいのよ。それともなにか、センスもないのに料理研究家なんてやるなってか)