刹那、人目も憚らず、織は私を強く抱き寄せる。

「どれだけ俺を夢中にさせたら気が済むの」

 織の声が……ほんの少し震えていた。

 私は放心して棒立ちだった。
 ただ織の熱を全身で感じ、やたらと大きく心臓が脈打つ。

 織がそっと私の頭に手を置いた。

「そうやって届かなそうな場所へさえ、道を変えても時間がかかっても突き進んでいく麻結が俺は好きだ」

 力強い瞳に私が映し出される。

 思えば、私はいつもこの目に見守ってもらっていたから、自分の思いをあきらめずにいられたのかもしれない。

 無条件に肯定し、支えてくれる織の存在があったから……。

「迷惑なはずない。待たないわけがないだろ。俺の目には昔も今も麻結しか映っていないっていうのに」

 するっと頬を撫でられた、次の瞬間。

「じゃあお互いに準備ができたら……結婚しよう」

 再びぎゅっと背中に手を回されるのと同時に言われたセリフに、頭が真っ白になる。

「い、いいの……? いつになるかもわからないし、お互い生活している距離だってすごく遠いのに」

 戸惑いを隠せず、織の腕の中から顔を上げた。
 織は不安な私の心を柔らかな微笑で包み込む。

「そういうのを徐々にふたりで考えて解決して準備していこう」

 いつしか通り過ぎる人たちの存在も忘れてしまった。

 私は織の首に両手を伸ばし、つま先立ちをする。どちらからともなく瞼を伏せ、唇を重ね合った。

「麻結、ずっと想ってる。これまでも、これからも。――好きだよ、永遠に」

 色とりどりのポスターが並ぶ前で、私たちはもう一度キスを交わした。