重い足取りで自分のマンションに戻った。

 着替えの入ったスーツケースを玄関に置いたまま、姿月はベッドに倒れ込んだ。

 次の出し物用の荷物のうち、最低限必要なものは既に先送りしてある。

 準備しなければならない物は、新しい着替えと、細々とした物だけ。

 三十分もあれば支度は出来る。

 半月前は、煩わしい筈のこうした事前の準備も、何処か浮き浮きした心持ちでやっていた。

 たった半月前の事なのに、すごく前のような気がする。

 浮き立った気持ちに舞台の神様はちゃんと微笑んでくれ、あの十一日間をくれた。

 昨日迄の気持ちのままでアタシは今日の舞台に上がれない……


 アタシのせい?

 アタシがいけない?


 着替えもせず、ベッドの中でただ悶々としていた。

 壁の時計を見る。

 この部屋に戻って来てからもう一時間が過ぎていた。

 そろそろ部屋を出なければならない。


 あと十分、いや五分だけ……


 身体を丸め、姿月は瞼を閉じた。

 ものの数秒で眠りに落ちた。

 七色のカクテル光線の中で光る汗を浮かべ、漂う自分がいた。

 恍惚。

 照らされるライトに導かれて、アタシは光りの神様と交わっている。


 夢……

 夢を見ていると判っている……

 判っているから、もう少しだけこの時間を頂戴……


 夢と現実の狭間の中に、姿月は己を漂わせていた。

 時計の針が無情に進んで行く。