自分にも悪い点があったかも知れない。

 一時はそう思って妥協する気持ちになりかけた事もあった。

 が、結局は何も変わらなかった。

 いや、益々溝が深まった。

 和歌山の劇場を思い返してみた。

 やる気の無い従業員。

 少しでも照明に注文を付けると、はっきりと嫌な顔をする。

 嫌な顔をしてもその通りやってくれるならばまだ我慢も出来る。

 ひどい時には、


「ただ脱いで股を広げてりゃ客は喜ぶんやから、そんな面倒な事する必要ないやろ」


 とまで言われた。

 返す言葉は売る程あったが、無駄だと諦めた。

 情けなさばかりが募り、一人楽屋で悔し涙を流した事も一度や二度では無かった。

面白い事に、他所の劇場のスタッフの方が自分の想いを理解してくれた。

 小倉、十三、そして横浜シアター·アート……

 要は自分の言いなりにならないタレントは必要無いという事なのか。

 足掛け四年。

 見なくてもいい業界の汚い部分を沢山見て来た。

 十六でミナミの水で鍛えられ、AVの世界にも入った。

 今更、自分が夢見る少女だとは言わないが、舞台に上がる自分達は少なくとも観る側に夢を与える商売をしてるじゃないか。


 ならば、せめて……

 せめて……


 そこから先の言葉を姿月は自分の奥底にしまい込んだ。


 言ってもしゃあない事や……

 けど、この先嫌な思いを背負ったままで自分のステージをきちんとやれるのだろうか……

 姿月のステージを楽しみに来てくれる客に、何時ものアタシを観せてあげられるだろうか。


 自問自答をただ繰り返すばかりで気持ちが落ち込む一方の姿月だった。

 殆ど一睡も出来ずに新大阪に着いた。

 このまま一旦自宅に戻り、和歌山への移動の準備をし、乗り込む予定でいた。

ふと頭の中をある考えが浮かんだ。

 姿月は直ぐそれを打ち消そうとしたが、その考えが自宅に向かう間中、ずっと頭の片隅でもやもやとしていた。