何時もは最終回の後半しか観に来ないのに、今夜は三回目がまだ終わっていない。

 狭い待合室でその客は、張り出されていた香盤表を眺め、自分の腕時計と見較べていた。

 姿月のファンが彼に気付き、軽く会釈をした。

 それに笑みを浮かべて応える長身の客。


「毎晩来てらっしゃいますよね?」


 ファンの一人が話し掛けた。


「はい」


 彼は照れたような表情を見せ、


「知り合いにそそのかれましてね。ストリップも馬鹿に出来ないぞって言われて……」

「で、どうでした?」


 僕は、背中越しに聞こえて来る会話に耳をすましていた。


「正直、初めは馬鹿にしてたんですが……ハマっちゃいました」


 ファンの二人は頷き合いながら飲みかけの缶ビールを一気に飲み干した。


「誰かお目当てが見つかりましたか?」

「特にまだ……ただ、最後に出て来る姿月という踊り子さんはそそのかした僕の友人のお勧めなんで……それに、他の踊り子さん達は何時も同じ演目なのに、彼女は毎回違う出し物なんで、ついつい足を運んでしまって……」

「ラッキーだと思いますよ。姿月さんだって普段はこんなに出し物を替えませんからね。週の前半と後半で替える事はありますけど」

「僕はついてるのかな……。」

「ええ、かなり。」


 三人の会話を聞きながら、僕は嬉しい気分になっていた。

 少しずつ客が増えて来る。

 そろそろ姿月の出番だ。

 新人の従業員を呼んだ。

 マネージャーから彼に照明を教えてくれと言われていたが、新人君はなかなか僕の言う事を飲み込んでくれないようだ。

 誤解の無いように言うが、機械の操作とか手順は、若いだけあってあっという間に覚えてくれた。

 僕が覚えて欲しいと思ったのはそんな事では無い。

 既に、何人かの踊り子さんの照明はやらせている。

 無難にはこなせてるようだが、それだけだ。


 僕が本当に教えたい事をきちんと伝えるには……

 姿月の照明をやっている僕の姿を見て貰うんだ……


 休憩中の新人君を呼び、一緒に投光室に入った。