明日で姿月との十一日間が終わる。

 連日、立ち見客が出る位、お盆前の興行にしては客が入った。

 殆どが常連客や姿月のファンだったが、中に一人だけ新しい客が居た。

 確か三日目前後に二人連れで来た客で、その風貌、外見からストリップは初めてなのだろうと察せられた。

 その客は、長い髪を後ろで束ね、パイプを手にした芸術家風で、じっと眼を凝らして舞台を見つめる姿が投光室から見ても目立った。

 その客が姿月目当てである事は直ぐに判った。

 初めて来た日から毎日、決まって最後の二人、三人辺りの時間帯にやって来た。

 180㎝近くはありそうな身体を微動だにせずいる姿は、舞台上の踊り子達からも目立った。

 空いている座席があっても、終始立ったままで、しかも連日同じ場所から観ているのだから、目立って当たり前だ。

 常連客同士の間でも、何日かするとその客の存在が意識されだした。

 僕自身、その客をかなり意識するようになっていた。

 楽日の三回目の始まり。

 時間は夕方の6時位。

 最終日という事もあり、どの踊り子達も高めのテンションでステージを務めていた。

 僕は三回目の姿月の照明を担当した後、そのまま最終回の全ステージの照明をする事になっていた。

 それ迄は受付だ。

 仕事を終えて駆け付けて来た常連客やファンがちらほらとやって来る。


「今日で最後かあ……。しかし、此処で『夜叉』や『お七狂乱』が観れるとは思わなかったなあ……」


 客の一人が、待合室で他の客と話していた。


「姿月さん、次は何処でしたっけ?」

「確か和歌山だって言ってましたよ。」

「和歌山かあ、此処みたいに毎日観に行くって事は出来ないなあ……。
 せめて初日か楽日のどちらかには顔を出したいんだけど、そうも行かないし」

「その分、今日はガッツリ応援して、しっかり目に焼き付けちゃいましょうよ」


 互いに姿月のファンなのであろう。

 自然と僕のテンションも高まりつつあった。

 横合いから人影が覗いた。

 あの客だ。


「いらっしゃいませ。今夜は何時もより時間が早いんですね」


 長身の客はにこりと笑った。