僕が横浜の『シアター·アート』に戻ったのは、平成十年の四月であった。

 半年振りに戻った僕をみんな心良く迎えてくれた。


「他の劇場の子と出来ちゃった位で何も飛ぶ事なかったのに。
 でもまあ、お兄さんが戻って来たから又此処に来るのが楽しみになった。」


 そう言ってくれたのは、何度か一緒に仕事をした踊り子達であった。

 それ以上に嬉しかったのは常連客から同じ言葉を聞いた時であった。

 再びこの世界に戻って来れた。

 狭い照明ブース。

 幾つものスイッチ。

 ピンスポットから伸びる一本の光りの帯。

 煙るスモークの中から浮き上がる踊り子。

 舞台に釘付けになる観客。

 拍手とどよめき。

 幾筋もの光りに輝く踊り子達の汗。


 僕の居場所は此処なんだ……


 直ぐさま姿月に電話をした。


(そう、戻ったんや。アタシ、ゴールデンウイークは野毛に乗るんよ)


 野毛の劇場は『シアター·アート』から歩いて5分程の場所にある。


 うちよりも小さな場末の劇場だ。


「野毛なんですか?ゴールデンウイークなのに?」


 姿月はそこそこ客を呼べる踊り子だ。


 野毛のような場末の劇場に乗るなんて……


 そんな思いを抱いた。


(アタシ、あれ以来シアター·アートには呼ばれてへんのよ。
 出し物が何時も暗いやつやからそこの小屋主さんに嫌われてるんやろか……)

「そんな事無いですよ。きっとたまたまだと思います」

(どうせ同じ横浜なら野毛じゃなくそっちに乗りたかったなあ……)

「僕も一緒に仕事したかったです。姿月さん、自分で暗い出し物って言ってますけど、昔からなんですか?」

(ううん、最初はな、他の子達みたいなブリブリのアイドル路線やったんよ……)


 姿月はデビューの頃を懐かしむように語り始めた。