「おいおい、飲めないとかゆうとったくせに、えらいええ飲みっぷりやないかい」


 周りも驚いた。

 立て続けにグラスを傾けながらも、一向に乱れないのである。

 しかも、紀子の身体をあちこち触ろうとする客の手を上手い具合に払い除けている。


「このおいたな手は誰の手えですか?」

「誰の手えって、そりゃあわしの手えに決まっとるがな」

「正直にゆうたから堪忍したげる。そやから、おいたな手はここに置いて、さ、飲みましよ」

「つれないなあ、せめて手えぐらい握らしてえなあ」

「じゃあ、今度来てくれたらね」


「来る!来る!絶対に来る!せやさかい、次回の予告編ちゅう事で一回だけ、なあ、ええやろ?」


 大の男が手玉にされていた。

 凛子が感心したのはこれだけではなかった。

 この客達が会計の時にひと悶着あった。


「なんやこれ!この金額はどういうこっちゃ!ちゃんと判る様に説明せい!」


 伝票を持った主任がおたおたしながら内訳を説明しだした。


「ですから、税金とサービス料がそれぞれ20%付きまして、それに女の子達へのドリンクが……」

「待てえ、こらあ!税金だあ、サービス料だあ?
 てめえら初めになんてほざいた!ぽっきり!一人こんだけで構いませんてぬかしたんやで!ありゃあ嘘かい!ここはぼったくりかい!」


 声を掛けた当の黒服は逃げを決め込んでいる。

 会計のトラブルはホステスは一切関わらないのが暗黙の鉄則。

 凛子はそっと紀子に耳打ちをし、席を離れようとした。