楽日。

 相撲の千秋楽と同じ最終日という意味なのだが、楽日には楽日の高揚感がある。

 初日のそれとは違う感覚なのだが、それはやはり出会いと別れの差なのかも知れない。

 楽日には、各踊り子達の追っ掛けやファンが多く来場する。

 中には十日間、一日も欠かさず観に来た客も居た。

 シアター アートのステージで初めて姿月を観たという客も少なくなかった。

 それらの者達も、皆間違い無く姿月の魅力に惹かれ、虜になった。

 楽日の最終回。

 姿月は自分のステージをビデオに録るからと言って来た。

 他の照明係はどう思うか知らないが、僕は、踊り子からステージのビデオを録ると言われる事に、ある種の優越感を抱く。

 自分の照明を認められたような気分に浸るのだ。

 殆ど自己満足だけなのだけれど。

 彼女のファンの一人がビデオカメラで最終回のステージを録った。

 ステージを終えた直後、まだ舞台衣装で半裸状態の姿月が僕を呼ぶ。

「佐伯くん、観て……」

「自分の照明をビデオで観るのって初めてなんですよね」

「ええやん!うん、かっこよく録れてる」

「このシーンで、思い切りスモーク出してましたけど、大丈夫でした?」

「大丈夫じゃなかったよ。あたし、思い切り吸い込んでたかも。来るで、来るでって身構えとったもん」

 笑いながら彼女は言う。

「なんかなぁ、佐伯くんの照明って、あたしをずっと包んでくれてるんよね」

「そうなのかな……自分では意識してないんですけど」

「あったかい光りがふっと照らされる時があったり、とにかく一個一個のライトに言葉とか気持ちがこもってたよ……。ありがとう……」

 大阪弁のイントネーションで言われたありがとうが、心に滲みて来た。


 今日で終わりなんだな……

 次に一緒に仕事が出来るのは何時になるのだろう……


 横に立ち、流れる汗を拭おうともしない彼女との時間を、僕はこのままずっと共有していたいと思った。