「あー……頭起こすと目が回る」
「疲れてるのに飲んだりするから……目が回るだけ? 気分は悪くない?」

顔を覗き込んで聞く。
芝浦は、高熱に浮かされているようなぼんやりした顔をしてはいるものの、顔色は悪くなかった。

単純に飲みすぎただけのようでホッとして笑みをこぼす。

「よかった。大丈夫そうだね」

芝浦がゆっくりと視線を泳がし私に留める。
とろんとした目でじっと見つめてくる芝浦からは、いつもの完璧さみたいなものが抜けていて少し可愛い。

「ん?」

なにか言いたそうに見ている芝浦に首を傾げる。
それまでぼんやりしていた芝浦の瞳に、ゆらりと熱が浮かんだ気がした次の瞬間。

「わ……っ」

伸びてきた手に抱き寄せられる。

気付けば私は、芝浦の両手に抱きしめられていて……数秒間、そのままだったと思う。

なにが起こっているのか理解するまでに時間がかかった。でも、抱きしめたままの芝浦が私の耳元で告げた言葉に、一気に現実に引き戻された。

「――」
「え……」

通路をバタバタと騒がしく走る足音が聞こえてくる。それがこの個室の前で止まったことにハッとして、芝浦の胸を思い切り突き飛ばした。

谷川くんが引き戸を開けたのと、倒れた芝浦が畳の上に肘をついたのは同時だったと思う。
「いってー……」と芝浦が呟く。

そんな光景を見た谷川くんが眉をひそめるから、慌てて笑顔を作った。