穏やかな寝顔を見ながら呟く。

それなのに、会えば私の愚痴ばかり聞いてたのか。
自分こそ大変なのに、いつもいつも、自分の愚痴は言わないで私の話ばっかり聞いて……慰めてなだめて、共感してくれていたのか。

今頃気づく。
私は芝浦に頼ってばかりで、頼られたことはなかったかもしれない。
いつだって芝浦は私の弱音に気づいてくれたのに、私はただ愚痴をこぼすだけで芝浦の抱えるプレッシャーや大変さには気づかなかった。

あんなにふたりで過ごしたのに。

「……言ってくれたらよかったのに」と口のなかでだけもらす。
いつか、生きるのが下手だなんて言われたけど、芝浦だって同じだ。

「あ、タクシー呼んであるから。もうすぐ着くっていうし見てくる。芝浦、起きそうなら起こしておいて。最悪俺が担ぐけど」

携帯を確認した谷川くんが立ち上がる。
谷川くんが引き戸を遠慮なしにピシャンと音を立てて閉めたからか、そのタイミングで芝浦が重たそうに頭を持ち上げた。

「……あれ。桜井、なんで……」

私を確認した芝浦が、寝ぼけ眼で言う。
こんなに目がとろんとしている芝浦は初めて見た。

「仕事帰りにちょっとだけ寄ったの。それより大丈夫? もうすぐタクシーくるらしいけど、起き上がれそう?」

芝浦の背中に触れようとして、ためらう。
こんなときなのに変な意識をしてしまう自分に、ひとり心のなかで喝を入れてから、気を取り直して芝浦の背中に触れた。

Yシャツ越しに伝わってくる体温にドキッとする胸を抑えつける。
介抱に不純な感情は不要だ。