そういう前提がしっかりしていれば、たい焼き片手にわざわざ部屋を訪ねてきたって、飲み会の帰り、毎回送ってくれたって期待しない。
ただの同期って強固なストッパーが私の心の平穏を守ってくれる。
私自身、芝浦との関係がどうこうなることは望んだこともなかったし、そもそも同期としては好きだけど男としてどうかは考えたこともない。
つまり、それ以上もそれ以下もない〝同期〟という関係は平和で平坦で楽だった。
……なのに。
白坂くんのせいで、私のなかでなにかが決壊してしまった。
そんなことないと思っていても、万が一、芝浦が私を好きだったらなんて考えるだけでどうにかなりそうだ。
ここ最近の芝浦の行動や表情は、私が強引にかけたフィルターを外して見れば、私を好きなんじゃないかと思えてしまうから厄介だった。
私がこんな状態なのに、呑気に寝てるし……と芝浦を睨むように見てからひとつ息をついた。
二十二時前の居酒屋は、わいわいと賑やかだった。
「芝浦、そういえば最近疲れてそうだったよね」
軽い口論になったのも仕事で疲れていたからだと話していたことを思い出す。
「ああ、なんかでかいプロジェクトが動きだすみたいだな」
谷川くんが、残り少しとなったビールを飲みながら話す。
「その企画の一部を任せられてるとか言ってたからなぁ。俺は経理だからあんまりよく知らないんだけど、企画部は来年の春までが山だって」
「そうだったんだ」



