「芝浦がこんなに酔うの珍しいね」

芝浦の隣の座布団に座りながら言うと、谷川くんが「だよなぁ」と答える。
一緒に飲んでいたはずなのに、彼はまだしっかりしているようだった。

「桜井がドタキャンなんかするからじゃないか? 今日、最初からピッチ速くて気づいたらこんなだったし。ああ、ちなみに他のヤツは二次会行った。俺も芝浦をタクシーに乗せたら合流する予定だから、芝浦頼んでいい?」

「残業だって言ってるのに、芝浦の面倒見るためだけに呼ばれたの? 私」

顔をしかめて「疲れてるのに」と文句を言うと、谷川くんは誤魔化すように笑う。

「だって芝浦が桜井とじゃなきゃ帰らないとか言い出すから」
「潰れてるなら誰と一緒だって同じでしょ」
「はは。鋭いとこつくなぁ」

後ろ頭をかく谷川くんを見て、まったく……とため息を落とす。
彼女とのこととか、換気をしないだとか、色々と話題になることが多いけれど、人のいい笑顔を見ると憎めないのは、谷川くんの武器だ。

だから、他の同期も彼をここに残していったのかな……と考えていると谷川くんが言う。

「でも、芝浦が桜井の名前呼んでたのは本当だから。まぁ、いいじゃん。おまえら特別仲いいんだし。芝浦がさしで飯行くのなんて、同期のなかで桜井だけじゃん」

『桜井だけ』という言葉に、ドキッと胸が跳ねる。
さっき白坂くんが言っていたことを思い出したからだ。

芝浦が私だけと特別仲がいい理由に……もしかしたら芝浦は私のことが好きなんじゃないかって可能性が加わってしまったから。

変な期待をしてあとで少しでも傷つくのは嫌だった。
だから、芝浦が特別扱いしてきてもただ馬が合うだけなんだろうって、だって芝浦は別次元のひとだしって、恋人なんかはそっちの次元のなかから選ぶんだろうって考えてきた。