「でも大丈夫です。俺は嫌なことは嫌だって言える性格ですし、沼田さんのあれは悪意は感じませんしコミュニケーションの一種としてとらえてるんで」

「ほんと? よかったー、白坂くんの心が広くて」

ホッとしながら歩き出すと、白坂くんが隣に並ぶ。
こうして駅まで一緒に歩くのは初めてだった。
退社時間が重なったこと自体、初めてかもしれない。

湿気を含んだ風がびゅっと吹きつけ、髪を揺らす。
今日は朝時間がなかったから髪を下ろしたままだけど、きちんとまとめてくればよかった。
やっぱり夏場は暑い。

駅まで続く大通りを、ヘッドライトをつけた車がせわしく行き来するのを横目で眺める。
そのなかに知らない名前の会社名が張り付けられた営業車を見つけ、心の中で〝お疲れ様です〟と同情しながら首を回す。

一日中デスクワークとかじゃなくても、肩も首もこるので、休日なんかは頭が外しておければいいのになぁと思う。
どうせなら体のパーツが全部二セットあれば週ごとに変えられていいのに。

「そういえば、芝浦さんと仲直りできましたか?」

生ぬるい風の気持ち悪さなんてまったく感じていないような涼しい顔で、白坂くんが聞く。

「あー……うん。依田様が差し入れてくれたたい焼き、芝浦に持たせたでしょ。あの日にちゃんと仲直りしたよ。ところであれ、どういう経緯で芝浦が持っていくことになったの?」

うちの部署と芝浦の部署は、仕事上関わることはない。
私だって、経営企画部に芝浦以外の知り合いはいないくらいだし、他のメンバーだって同期でもいない限り接点がないはずだ。