会社に戻り、報告書や指導日記、こまごまとした雑用を済ませると、時間はもう二十時近かった。

約十二時間後にはまた会社にいるのか、と考えると頭がクラクラする。そんな憂鬱を吹き飛ばすように椅子に座ったまま背伸びをすると、ちょうど後ろを通っていた白坂くんにぶつかってしまった。

両手でパンチする形になってしまい、慌てて謝る。

「ごめん。痛かった?」
「鉄拳制裁ですか? 俺の仕事が遅いから」
「まさか。白坂くん、仕事はできるもん。……ただハッキリものを言いすぎるところは困るけど。なんでか知らないけどとばっちりが私にくるから」

「桜井さんが面倒見よく対応するからでしょ」

隣の椅子を引いた白坂くんが「俺、ハッキリものを言いすぎるタイプのコミュ障なんで」と続ける。

他の会社も同じなのかはわからないけれど、水曜日はノー残業デーが謳われている。
そのためか、部署のメンバーも半分以上の社員がもう退社していた。

残っているのは部長と私と白坂くん、そのほか男性社員がひとりだけだった。

「なにか手伝えることありますか?」

白坂くんに聞かれ、デスクの上を見渡す。

「んー、大丈夫かな。私ももう終わるから。あがって大丈夫だよ」
「そうですか。じゃあ駅まで送りますよ。少し前に変な騒動がありましたし」
「ああ、そういえばそんな事件あったね。二週間くらい前だっけ。犯人、まだ捕まらないんだっけ」

芝浦とそんな話をしたことを思い出す。

「でも私、これから着替えなくちゃだし。いいよ、先帰って」
「着替えるのに何十分もかかるなら先に帰りますけど。桜井さんの着替えなんて、五分程度でしょ。待ってますよ」