「ああ。それ、俺の立場のこと言ってます?」
「うん。周りから色々言われたり、好意的にも違う意味でも変な目で見られたりして大変でしょ。部署内でくらい息抜きしてね。沼田さんも私も白坂くんのこと狙ってアピールしたりしないから安心して仕事してくれていいから。……あ、信号変わるよ」

交差点の一方の信号が赤になったことを指摘すると、白坂くんは前を見てハンドルを握りなおす。

「っていうか、そもそも他のことなんて気にしないで仕事に打ち込める環境でなくちゃいけないんだよね。だから、せめて部署内では……って思うから、もしも私がおかしな態度とってたら言ってほしいって話。仕事以外のことで嫌な思いはさせたくないから」

青信号になったっていうのに、進行方向には車が詰まっている。
夕方だし混み合う時間だ。
順調にいけば会社まで十分もかからないけれど、これだと二十分以上はかかりそうだった。

どこかの車がクラクションを鳴らすのが遠くに聞こえた。

「どうして急に?」

前を向いたまま聞く白坂くんに、私も前を向いたまま答える。

「んー。芝浦に言われて考えてみたの。私はそんなつもりなくても、変な見方が混ざっちゃってたかもしれないって」

「変な見方……」
「例えば……雑用とか、文句も言わずにやってくれるから偉いなって思ってたけど、そこに〝社長の甥っ子なのに〟っていう頭がなかったかって考えたら自信ないなって」

芝浦はつっかかってくるヤツではあるけど、ああいう、場の雰囲気が悪くなるようなことは言わない。あくまでも冗談の上でだ。

だから、そんな芝浦がああ言ったってことは、私の態度になにか問題があったのかもしれない。
落ち着いてからそう思った。