「ふたりで会った最後、桜井の笑顔が変わるんだよ。力が入ってない……なんていうか、ふにゃってした顔になる。それ見て、うまく息抜きできないなら俺がって思ったし、いつでもそういう顔した桜井を見ていたいとも思った」
自覚していなかっただけに驚く。
でも、芝浦と会ったあとは気持ちが軽かったことは知っているから、きっとそれが顔にもでていたんだろう。
そんな風に思ってくれていたのか……と知り、胸の奥が温かくなる。
「桜井、どんな時でも目を見て〝ありがとう〟って絶対に言うだろ。喧嘩してても。そういうところも」
一拍空けてから聞こえた「好きだし、可愛くて仕方ない」の声に心臓を鷲掴みされたような気分だった。
経験したことのないような甘い疼きの逃がし方がわからず困っていると、芝浦が「でも、言わないように我慢してた」と続ける。
それまでよりもやや落ちたトーンだった。
「それが、酔った勢いで出て……あとから死ぬほど後悔した」
「言わないようにって、なんで?」
同期だし、言いにくかったんだろうか……と考えながら聞くと、芝浦は自嘲するような笑みを落としたあとで答える。
「簡単に言えば、俺の独占欲のせいなんだろうな」
「独占欲?」
〝我慢してた〟と〝独占欲〟が繋がらず、思わず聞き返す。
芝浦は私の問いに直接は答えず、「いつ、同期って関係を壊してやろうかってずっと考えてた」と続けた。
「でも、もし好きだって言ってうまくいかなかった場合、桜井はひとりで泣くかもしれないって……振った手前、もう俺の前では泣けなくなるってわかってたから、なかなか言い出せなかった」
「あ……」
「他の男に泣きつくところなんか想像したくもなかった」



