「もう散々待った。それに、こんな好機逃がすわけないだろ」

痛いくらいに真剣な眼差しを受け、声を失う。

散々待ったって……私を待っていたってこと?
本当に? いつから?

そんなことをグルグルと考えているうちに、芝浦が一枚のドアを開ける。
玄関の明かり以外は真っ暗で、お化け屋敷みたいな照度しかないけれど、住み慣れた芝浦にはどこになにがあるのかわかるらしい。
暗闇のなか、障害物を怖がる素振りを見せずにズンズン進んでいく。

目が暗さに慣れてきて、芝浦が足を止めた先にあるのがベッドだとわかりドキッと胸が跳ね上がった。

寝室なんだろう。六畳ほどの洋室にはベッドとチェストが置いてあるだけで、他の家具はない。
つまり、リビングは別にあるのか……と職業病なのか、こんな場面だっていうのに間取りを気にしてしまう。

「わ……っ」

同期なのにここまで部屋に格差が現れるなんて……と内心驚いていると、突然後ろから抱きしめられる。
濡れたままのブラウス越しに芝浦の体温がじわじわと移ってくるから、心臓がドクドク鳴った。

「ま、待って、芝浦」
「待たない」

言い切った芝浦が、私をベッドに押し倒す。
仕草は強引なのに、私の頭をしっかりと手で守りながらベッドに組み敷く優しさに、胸が甘く鳴き、流されそうになってしまう。

でも、このままするわけにはいかないと口を開いた。

「そうじゃなくて、この間の、飲み潰れたときのことっ」

口にした途端、これまでずっと『待たない』の一点張りだった芝浦がピタリと止まる。