ほどなくして到着したタクシーに乗り込み、芝浦が住むというマンションに向かう。

タクシーに乗る際解けた手は、シートの上で再び繋がれていた。
大きくてゴツゴツした手は明らかに男性のもので、当たり前なのにそこにドキドキした。

芝浦なのに、芝浦じゃないみたいで……緊張する。

雨はいつの間にか小降りになっていて、雷の音も遠くで響く程度になっていた。

「ここ……?」

到着したのは十階以上はある立派なマンションで唖然とする。タクシーで来たから確信はないけれど、駅からだってそう離れていないんじゃないだろうか。

私が驚いているうちに支払いを済ませた芝浦が、再び手を取り足早に歩き出すから、転びそうになった。
綺麗なエントランスを抜けて、待機していたエレベーターに乗ると、芝浦の指が6の数字を押す。

不動産会社に勤めている身としては、こんなに立派なマンションならエントランスの細かいところまで見たいのに、芝浦の手の強さがそれを許さない。

言葉はないのに、気持ちの大きさを教えられているみたいだった。
離す気はないと伝わってくるようで、なんだかいたたまれなくなってうつむいた。

逃げようなんて思わない。思わないけど……まだ残っている疑問はあって、その疑問に気持ちを後ろから引っ張られる。

「あの、でも、やっぱりちょっと待って」

玄関を上がったところで言う。
人感センサーでついたライトを受けながら見上げると、芝浦は私を見て「待たない」と即答した。