「……そのまま電車乗るのはやめたほうがいいかもな」

なんで……という疑問は、自分自身の服を見下ろしてすぐ解けた。

「あー……そうだね」

ブラウスが雨に濡れて、なかが透けてしまっている。
黒いキャミソールだからそこまでの恥ずかしさはない。それに、突然の雨だったから同じような条件の女性もたくさんいるだろう。

それでも、たしかにこのまま電車に乗るのは抵抗がある。

ここから家までタクシーで帰るのは金銭的に厳しいけれど、そうするか。それか、自然乾燥を待つか。……果てしないな。

ちっとも降りやまない雨を眺めながら考えることを放棄したくなっていたとき、芝浦がスマホの画面を見せてきた。
タクシーの現在地確認や予約ができるアプリだった。

「タクシー、今ならあと十分で来るって」
「え、あ、でも……」
「俺の部屋なら、ここからひと駅だから」

ここから、つまりオフィス街からひと駅って、芝浦そんなにいい場所に住んでるのかと驚く。

同期といっても、能力給や資格給もあるし、その辺で芝浦は他から飛び出している。だから当然、給料もいいわけで……それにしてもさすがだなぁと感心していると、芝浦の目が私を捕らえた。

「俺の部屋、くる? 車あるから桜井の家まで送ってくけど」
「え、本当? 助かる……」
「ただし、部屋にあがったら手は出すけど」

浮かびかけた笑顔が、芝浦のひと言に消える。

手は出すって……と今の芝浦の言葉を頭のなかで何度か繰り返すと、体がじわじわ熱くなるのがわかった。