お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。

イートン伯爵とケネスがわざとらしく咳ばらいをする。ザックとロザリーはハタと気づいて慌てて離れた。

「いやいや気にしなくてもいいんだよ。俺たちのことは壁に描かれた絵だとでも思ってくれれば。ねぇ、父上」

「いやはや、アイザック殿の幸せそうな姿を見るのはいいものだよ。なぁ、ケネス」

ザックはがっくりと肩を落としてしゃがみこんだ。
「あれ、あれ、大丈夫ですか」と慌てだすロザリーは子犬のように寄り添ってくる。

(かわいい……)

どうしようもないなと自分でも思うが、ロザリーを前にするとザックは思考がバカみたいに単調になる。どんなに悩んでいても、一瞬頭からすっかり抜けてしまう。かわいくて、それだけでよくなってしまう。

(どうしようもない。これが王子で本当にいいのか……)

自分で呆れながらも、心が回復しているのが分かる。体にも活力がみなぎるようだ。

「大丈夫だ。とにかく、デビューしたからには君にも危険が付きまとう。なるべく俺とは距離を置いたほうがいいんだが……」

だが、ロザリーを前にして他の女性と同じようにぞんざいな扱いができるとは思えない。
思案に暮れていると、予想外なことを言い出した人物がいた。

「それに関しては、私に提案がある。ロザリー嬢を第二王妃カイラ様と引き合わせようと思っているんだ」

「母上と?」

「ああ、ふたりとも私が後見する女性たちだ。何かの折に出会っても不思議はないだろう?」

「それは……そうですが」

「ロザリー嬢は鼻が利くと言っただろう? 君にカイラ様の毒見係になってほしいんだよ」

イートン伯爵の発言は、ケネス以外には晴天の霹靂だった。

「え、えええええ?」

ザックとロザリーの揃った声が、廊下にまで響き渡り、通りすがる使用人は、一瞬眉根を寄せた。