「きゃっ」
「白い手袋なら俺から今度贈ろう」
「でも、お化粧落ちちゃったかもです。見ないでください」
「いやだ」
片腕で彼女を抱き上げたまま、顔を隠そうとする手を空いているほうの手で掴む。
「俺は怒ってるんだ。……なのに、会えたのがこんなに嬉しい。どうしようもない阿呆だ。ロザリー、俺は」
一度言葉を切って、頬を軽く染めたまま、まっすぐにロザリーを見つめる。
「君にずっと会いたかった」
心からの本心は、まっすぐロザリーに届いた。
「わ、私もです。ザック様。会いたくて会いたくて、仕方なかったです」
真っ赤になる顔がかわいくて、ザックはロザリーをギュッと抱きしめた。
王子であるザックの結婚相手に、ロザリーは不足だと言われるだろう。けれどザックは心に決めた。
彼女以外に、自分を癒してくれる女性などいない。なにがあっても彼女を離してはいけないんだ。
でないと自分が自分を保てないのだから。
ザックが改めてロザリーの存在を噛みしめたその時。
「ゴホン。ケネス、我々はどうしようかね」
「そうですねぇ。無言で出ていってやりたいところですが、デビュタントの令嬢と男をふたりきりにするわけにもいかないでしょう、父上」



