お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。


「ああもう!」

ザックは伯爵とケネスをかき分け、ロザリーに近づくと思い切りギュッと抱きしめた。

「危険だから来るなと言ってるんだ。君はバカなのか? 俺の周りには平気で命を狙ってくるような刺客だっているんだ。俺の気持ちが周りにバレたら、君は格好の標的になるのに」

言っている内容の割には、離すもんかとばかりに力を込めているザックに、ロザリーは困惑している。
ザックとしては心のままに動いているだけだ。触れたくて、でも怒りたいんだから仕方ないだろう。

「す、すみません。すみませ…ん?」

「本当に信じられない。危険も顧みず、こんなところまで……。もっとも信じられないのは、俺が君を目の前にしたら、嬉しいのが隠せないってことだ」

抱きしめられているロザリーには見えないが、ザックの顔は真っ赤だ。

「俺の言うことを聞かない君に腹が立つけど、嬉しくて仕方ない……!」

途端に、腕の中のロザリーはへなへなと力を無くして座り込んでしまった。

「どうしたんだ、ロザリー」

「す、すみません。ザック様だぁって思ったら、なんだか力が抜けちゃって……」

白い手袋で目尻を押さえていた彼女は、手袋についた化粧の色に慌てだす。

「どうしよう。汚しちゃった! ケイティ様が用意してくださったのに」

アワアワしながらうろたえる姿は可愛らしく、ザックはもう建前などどうでもよくなって彼女を抱き上げた。