お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。


デビュタントの挨拶が終わり、王族としての役目をとりあえず終えたザックは急いで大広間を出た。
もちろん、ロザリーを探すためだ。

「君、イートン伯爵を見なかったか?」

「イートン伯爵ですか? 先ほどご子息と連れ立ってあちらの方へ向かわれましたが」

従僕が指し示した方向には、控室が並んでいる。休憩用や、少人数で密談をするときのために用意された部屋である。
本来、先客がいるときに入るのはマナー違反だが、そうも言っていられない。
何部屋かノックをし、聞きなれたイートン伯爵の声に「俺です。失礼します」と宣言し、返事を聞く前に中に入った。

中には、イートン伯爵とケネス、そして彼らの陰に隠れるようにロザリーがいた。
まず彼女がぱっと顔をあげ、「ザック様」と小さくつぶやく。その瞳にはまだ涙が盛り上がっていて、ザックは直ぐにでも彼女を抱きしめたい衝動に駆られ、手を伸ばした。

「なっ……」

「はい、ストップ」

それを止めたのはケネスだった。
明らかにロザリーを社交界デビューさせた首謀者である彼に対し、ザックの怒りが沸騰する。

「おまえっ、俺があれだけ危険だから連れてくるなって言ったのに!」

「言ったねぇ。でも俺には今、君の指示を聞く義務はないし」

何食わん顔でそう言われて、今度はイートン伯爵に不満をぶつける。